第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
「くだらないことで嬉しそうに笑うところとか。前に、たんぽぽの綿毛ついてただけで『お揃いだね』って喜んでた時とか。緊張すると、すぐに髪いじるところも」
そんな細かいところまで。
私自身も気づいてなかったようなことまで、伏黒くんは見てたの!?
「困ってたら放っとけないし。泣いてたら気になるし。笑ってたら……なんか、安心する。それに……」
伏黒くんの声が、少しだけ小さくなった。
「が五条先生を見てると、面白くない」
「……!」
「だから、なんで好きなのかって聞かれても。だったから、としか言えねぇ」
そんな真っ直ぐに言われたら、なんて返せばいいのかわからない。
伏黒くんの言う通り、気づけば前髪を指先でいじっていた。
「ありがとう。私、美人ってわけでもないし。スタイルがいいわけでもないし。む、胸だって大きいわけじゃないし……」
「……そういうとこじゃねぇよ。見た目で好きになったわけじゃないって言ってんだろ。まあ、胸は別に大きさじゃねぇし」
「え?」
「柔らかかったし……」
そう言って、伏黒くんが自分の右手のひらを見た。
あの旅館であったことを思い出して、胸を腕で隠す。
「伏黒くん……!」
「お前が胸の話するからだろ」
「だからって言わなくていいの! 伏黒くんのばかっ!」
「……こほん」
すぐ近くの席から、咳払いが聞こえた。
二人同時にそっちを見ると、隣の席の人とばっちり目が合う。
「「……すみません」」
どうやら、思っていたより声が大きかったらしい。
気まずくて、私は残っていたミルクティーを一気に飲み干した。
「……帰ろっか」
「……そうだな」
お店を出ると、さっきまで降っていた雨はすっかり止んでいた。
濡れた歩道が、街の明かりをぼんやり映している。
伏黒くんが、当たり前みたいに私の隣を歩く。
今日だけで、知らなかった伏黒くんをいくつも知った。
好きな本。
休日の過ごし方。
私のことを、どんなふうに見ていたのか。
高専に戻ったら、さっきの本も貸してくれるらしい。
なんだろう。
さっきから、伏黒くんのことを考えると胸のあたりがふわふわする。
この感じ、先生といる時と少しだけ似ている気がした。