第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
「雨止むまで、ここにいよう」
「うん」
お店の中に入り、二人で本棚の間を歩く。
小説。
写真集。
旅行記。
知らないタイトルばかりで、つい一冊ずつ目で追ってしまう。
私も本は読むけど、こういう古本屋に来ることはあまりない。
見たことのない本ばかりで、なんだか新鮮だった。
その隣で、伏黒くんは慣れた様子で棚を見ていた。
「……あ」
ふと伏黒くんが足を止めて、一冊の本を棚から抜き取る。
少し使い込まれた表紙の本だった。
「これ。前に読んだ」
「面白かった?」
「まあ」
「まあ、なんだ」
私は伏黒くんの手元の本を覗き込んだ。
「ノンフィクション系?」
「実際にあった話とか、わりと好きで読む」
「へえ……そうなんだ」
またひとつ。
知らなかった伏黒くんを見つけた気がした。
「……それ、私も読んでみようかな」
「、こういうの読むのか?」
「普段は読まないけど……伏黒くんが面白かったなら、ちょっと読んでみたい」
「…………」
「ん?」
「いや……別に」
伏黒くんはそう言って、私に本を差し出した。
受け取って、もう一度表紙を見る。
「難しい?」
「そんな難しくねぇよ。読みやすいと思う」
「面白かったら、あとで感想言うね」
「……ああ」
そう答えた伏黒くんの口元が、珍しく緩んだ気がした。
伏黒くんの好きなものをひとつ知って。
同じ本を読む。
それだけなのに、なんだか距離が近くなったみたい。
私たちはそれぞれ本を手にしたまま、奥のカフェスペースへ向かった。
窓際の席に座って、飲み物を注文する。
私はミルクティー。
伏黒くんはやっぱり、コーヒー。
飲み物が届くと、自然と会話が途切れた。
伏黒くんはすぐに本を開いて。
私も、さっき選んだ本の最初のページをめくる。
ページをめくるうちに、物語に引き込まれていった。
実際に起きた出来事をもとにした話だからか、ひとつひとつの出来事が生々しい。
登場人物がその時どう考えて、どう動いたのか。
読み進めるほど、続きが気になっていく。
気づけば時間も忘れて、半分以上読み進めていた。