第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
***
「まだ、帰したくない」
帰したくない。
それって、どういう意味で。
繋がれた手がじわじわと熱くなっていく。
指まで絡められていて、簡単には離れられない。
……ううん。
振り払おうとすれば、伏黒くんは手を離してくれるだろう。
それをしないのは。
できないのは――。
「……わ、私……」
何て答えればいい?
伏黒くんとまだ一緒にいたい?
そう聞かれたら。
たぶん――。
ぽつ。
また頬に冷たいものが当たった。
「……あ」
一滴だった雨は、あっという間に数を増やしていく。
「わ、降ってきた……!」
「走るぞ。こっち」
伏黒くんが繋いだ手を引いて、走り出した。
どこ行くの?
まさか。
また、あの旅館の時みたいな――。
「~~~~っ!」
頭が勝手にあの夜のことを思い出していく。
いやいやいや!
伏黒くんは何も言ってないし。
でもでも。
このまま、どこか二人きりになれる場所とか連れていかれたら――。
私、どうしたらいいの!?
「伏黒くん、まっ――」
そう言いかけたところで、伏黒くんが急に立ち止まった。
「ここ」
そう言って伏黒くんが指差したのは、大通りから少し外れた場所にある小さな店。
古びた木の看板。
大きな窓の向こうには、本棚がいくつも並んでいる。
よく見ると、その間にテーブルやソファが置かれていた。
「…………本屋さん?」
「古本屋。奥がカフェになってる」
「…………」
伏黒くんは、ただ雨宿りする場所に連れてきてくれただけなのに。
また旅館の時みたいなことになるんじゃないかって、一人で想像して……。
恥ずかしい。
もう、本当に何考えてるの、私。
「……ご、ごめん」
「は? 何が」
伏黒くんが、意味がわからないと言いたげに眉を寄せた。
「ううん、なんでもない!」
「……?」
「こ、こんなところあったんだね。伏黒くん、よく来るの?」
「たまに。休みの時とか」
知らなかった。
伏黒くんが、こういう場所に来ること。
休日に何をしているかとか。
そういうこと、今までちゃんと聞いたこともなかった。