第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
「……伏黒くん。わざと?」
「………………たまたま」
「…………」
は何か言いたげに俺を睨んだあと、手にしていたタオルをぎゅっと胸元へ抱き寄せた。
「伏黒くんって、こんなキャラだったんだ」
「悪かったな」
しょうがないだろ。
意地悪してしまうのも。
困らせてしまうのも。
全部、お前の気を引きたいから。
自分でもこんなガキみたいなことするなんて。
あの日からおかしいのは、俺もなのかもしれない。
「……幻滅したか?」
「え?」
「俺が、こういうことするやつだって知って」
「幻滅とかじゃなくて……ただ、びっくりしただけ。伏黒くんって、もっといつも冷静で、真面目で……こういうことしない人だと思ってたから」
「……」
「でも、嫌じゃないよ。知らなかった伏黒くんを見たみたいで」
「…………そうかよ」
本当の俺は、お前が思っているほど冷静でも真面目でもない。
ずるいことも考えるし、嫉妬もする。
意地悪だって、平気でしてしまう。
もし、が俺の全部を知ったら、引くかもしれない。
それでも。
もっと、俺のことを見てほしい。
もっと、俺のことを知ってほしい。
の中を、俺でいっぱいにしたい。
あの人のことを考える余地がなくなるくらいに。
気づいたら、の頬に手を添えていた。
「……キスしたい」
「…………へ? い、今、なんて……」
「聞こえただろ。キスしたい」
「な、何言ってるの!?」
は慌てて口元を手で隠した。
「ここ、寮だよ! みんな来るかもしれないし!」
「ここじゃなきゃ、いいのかよ」
「そういうことじゃないって!」
耳まで真っ赤にして怒っている。
怒っている、はずなのに。
口元を隠したまま、俺から目を逸らせずにいる。
そうやって、俺だけをずっと見ていればいいのに。
「それに……先生も、だめだって言ってたし……」
「……先生?」
その瞬間、五条先生の声が頭をよぎった。
『僕、に呪いかけちゃったから』
呪い。
あの時は、何を言っているのかわからなかった。
けど、今なら少しだけわかる気がした。