第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
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その夜。
寮の自販機の前に立ったまま、俺はもう何分も同じ列を見ていた。
水。
お茶。
スポーツドリンク。
別に、どれでもいい。
飲み物を選んでいるふりをしているだけだ。
本当は、を待っていた。
この時間にシャワーを使うことを、なんとなく知っていたから。
偶然みたいな顔をして、声をかけるつもりだった。
最近のは、俺と二人きりになりそうになるとすぐ逃げるからな。
こうでもしないと、まともに話せそうになかった。
スポーツドリンクのボタンを押す。
取り出し口に落ちる音とほとんど同時に、廊下の奥で扉の開く音がした。
振り向くと、がシャワー室から出てくるところだった。
湯上がりで頬がほんのり赤く、まだ少し濡れた髪をタオルで押さえている。
その姿は、旅館で見た浴衣姿と重なった。
涙で濡れた目。
俺の名前を呼んだ、震える声。
俺の腕の中にいた、あの時の。
あの夜に引き戻されたみたいに、身体が熱くなる。
「ふ、伏黒くん……?」
「……おう」
は俺を見た途端、わかりやすく固まった。
「こんなところで、どうしたの?」
「飲み物買いに来ただけ」
「そ、そうなんだ……」
嘘ではない。
嘘ではないけど、全部本当でもない。
は視線を泳がせたまま、俺の横を通り過ぎようとする。
その頬が、また赤い。
風呂上がりだからか。
それとも――。
「」
「っ、な、なに?」
一歩近づくと、もなぜか一歩下がった。
「……なんで離れるんだよ」
「気のせいだよ」
そう言って、俺の横を抜けようとする。
その進路を塞ぐように、一歩動いた。
が足を止める。
それから、反対側へ。
俺も、その前へ出る。
「……」
「……」
もう一度、が方向を変える。
俺も合わせて動く。
二回、三回と繰り返したところで、がとうとう足を止めた。
その隙に一歩距離を詰めると、は反射みたいに下がって、背中を廊下の壁にぶつけた。
逃げ場がなくなったが、困ったように俺を見上げる。