第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
五条さんの頬を両手で挟んで、むにっと引っ張った。
「…………」
もう一回むにむに。
……消えない。
夢なら、こういうことしたら普通消えたりしない?
五条さんが、頬を潰している私の手首を掴んだ。
「死にかけてたくせに、元気になったね」
死にかけてた?
今。
五条さん、なんて言った?
死に、かけてた。
……「かけてた」ってことは、まだ死んではいない。
死にそうだった。
でも、死んではいない。
え。
じゃあ私、まだ死んでないってこと?
これ、夢じゃ、ない……?
自分の中で、都合のいい夢と現実の境界線が音を立てて割れた。
「な、ななななななな、何してるんですかぁーーっ!?」
勢いよく上体を起こし、近くにあったシーツをひったくるように引き寄せた。
そのまま自分の身体をぐるぐる巻きにして隠し、ベッドの端までズザーッと後ずさる。
「え? 何って……」
五条さんは顎に手を当てて、少し考えた後。
「クンニ?」
「ぶふっ!?」
あまりにもストレートな単語に、むせてしまった。
そんなあっさり言わないでください。
その言葉は、私の中のえっちな言葉ランキング、堂々の第二位ですよ!
じゃなくて!
ま、待って、待って待って!
今までの、夢じゃない!?
え、どこからが夢!?
どこからが現実!?
ぎゅってしてって甘えたり。
大事な子?なんて聞いたり。
それに私、『好き』って……っ!?
あの水族館の日に、ようやく気づいた気持ち。
ずっと隠しておくつもりだったのに。
さっき、私は言ってしまったのだ。
『好き』だと。
何回も!!
私はのそのそとシーツから顔を出した。
五条さんはシーツの塊と化した私を、ニヤニヤと笑いながら見つめている。
「五条さん……あ、あの……」
「ん?」
「さっきの……聞こえて、ました……?」
「さっきの……? 何のこと?」
聞いてない?
じゃあ。
あの「好き」は、夢の中で言ったんだ。
「……よかったぁ……」
全身から力が抜けて、ほっと胸を撫で下ろした。