第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
『最近、拾ったばっかの子なんだけどさ』
『僕が帰るとすぐ迎えに来るし、寂しがり屋だし。放っておくとすぐ拗ねるしね』
『尻尾もすっごい素直』
――待って。
先生が言ってた「拾った子」って……。
この人?
「犬じゃなかった……」
そんな間抜けな言葉が、口から零れた。
いや。
犬どころじゃない。
誰が、マンションで待っているのが淫魔だなんて想像するだろうか。
先生は彼女の背中と膝の裏へ腕を差し入れ、壊れ物でも扱うみたいにそっと抱き上げた。
力の抜けた身体が、先生の胸元へ預けられる。
薄く透けかけた尻尾が、だらりと先生の腕から垂れていた。
先生は彼女の頭が落ちないように抱き寄せると、そのまま何事もなかったように路地の出口へ向かおうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて、その背中を呼び止めた。
先生が足を止めて、振り返る。
「なに?」
「なにって……!」
思わず声が大きくなる。
「先生、自分が何してるかわかってるんですか!?」
「わかってるよ」
先生はあっさりと答えた。
まるで、僕が何を言いたいのか最初から全部わかっているみたいに。
「憂太、この子のこと、上には報告しないでほしいんだよね」
「え……? 先生、その人は……」
そこまで口にしたところで、先生がふっと笑った。
「そ」
腕の中の女性を抱え直す。
「僕の大事な子」
あまりにもさらりと言われて、すぐには意味を理解できなかった。
「じゃ、憂太は引き続き任務よろしく」
「ちょ、先生! 待ってください!」
「お疲れー」
「先生っ!」
僕の声なんて聞こえていないみたいに、先生はそのまま路地を出ていく。
「…………」
残された僕は、ただその背中を見送ることしかできなかった。
先生、一体何を考えてるんだ?
あの顔を。
僕が見間違えるはずがない。
だからこそ、わからない。
どうして先生は、あんなにも当たり前のように彼女を抱いていられるんだ。
だって。
あの人は――――。