第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
「……本当にさんですか?」
彼女の唇がわずかに動くが、声にはならない。
そのまま瞼がゆっくりと閉じていった。
意識を失ったらしい。
動揺するな。
目の前にいるのは淫魔だ。
呪術師として、何をすべきか考えろ。
息を呑み、刀を握る手に力を込める。
(このまま、祓う)
切っ先を彼女の喉元へ突き立てようとした、その時だった。
「憂太」
聞き慣れた声に、身体が止まる。
「……せ、先生?」
振り返ると、路地の入口に五条先生が立っていた。
じゃあ、さっき感じた気配は――。
先生が近くにいたから……?
「どうして、ここに……」
先生は僕の問いには答えなかった。
目隠しの奥から、僕を見ている。
いや。
僕じゃない。
地面に倒れている、この女性を。
「その子から、刀どけて」
「……でも、先生。この人は――」
「わかってる」
言葉を遮るように、先生が言った。
「だから、どけて」
そう言った五条先生の顔に、いつもの軽薄な笑みはなかった。
僕は迷いながらも、ゆっくりと刀を下ろす。
先生は僕の横を通り過ぎると、そのまま地面に倒れている女性のそばへ膝をついた。
「…………」
……え?
先生は今。
確かに、この人を。
、と呼んだ。
迷いもなく。
当たり前みたいに。
先生の手が、そっと彼女の頬に触れる。
「……何やってんの」
小さく零れた声は、怒っているようにも聞こえた。
「絶対、家から出るなって言ったじゃん」
その瞬間。
数日前の車の中で聞いた先生の言葉が、頭を過ぎった。