第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
一人の女の人が、地面に倒れていた。
その身体を押さえつけるように、もう一人の女が馬乗りになっている。
頭には角。
背中には黒い羽。
女の長い尻尾が、組み伏せられた女性の胸元へ突き刺さっていた。
資料にあった特徴と、同じだ。
「……淫魔」
地面を蹴り、一気に淫魔との距離を詰めた。
こちらに気づいて振り返るより早く、刀を横薙ぎに振るう。
ヒュッと鋭い音が響いて、淫魔の首が宙を舞う。
首を失った身体はぐらりと傾き、そのまま崩れて消えていった。
「……あれ?」
さっき感じた五条先生の気配。
てっきり先生がいるのかと思ったけれど、姿はない。
「今、一瞬だけ……五条先生の気配がしたような気がしたんだけど」
気のせいだったのかな。
それより、今は――。
僕は刀を下ろし、地面に倒れている女の人へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
返事はない。
呼吸も浅く、ほとんど意識がないように見える。
「しっかり――」
助け起こそうと手を伸ばした瞬間、初めて彼女の顔がはっきりと見えた。
「…………え」
一瞬。
自分が何を見ているのかわからなかった。
そんなはずがない。
「……なんで……」
もう一度、その顔を見る。
見間違いじゃない。
身体に視線を落とすと、ありえないものが目に入った。
頭から覗く、小さな角。
地面には、今にも消えそうな細い尻尾。
さっき祓った淫魔と同じ特徴。
頭が追いつかない。
何がどうなってるんだ。
気づいた時には、刀を握り直していた。
切っ先を、彼女の喉元へ向ける。
彼女は抵抗しなかった。
いや。
もう、抵抗する力すら残っていないんだろう。
今にも閉じそうな瞳が、ぼんやりと僕を見ている。
「あなた……」
目の前にいる存在が何なのか。
確かめなければならない。