第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
「あの、五条先生は?」
「あ?」
「こういう大きな任務なら、先生も動いてるのかなって」
「ああ。五条なら別で動いてるらしい」
「別で……」
「お前は自分の持ち場だけ気にしてろ。五条の心配なんか世界で一番必要ねぇから」
「あはは、それもそうですね」
資料を日下部先生に返し、僕は待っている補助監督のもとへ向かった。
まさか、この任務で。
あんな光景を目にすることになるなんて。
この時の僕は、まだ知る由もなかった。
・
・
・
現場に着いた時には、すでに帳が下りていた。
見上げれば、住宅街一帯が薄暗い膜に覆われている。
住民の退去はすでに完了しているらしく、辺りに人の姿はない。
刀の柄に手をかけたまま、まず片手だけを帳の中へ差し入れた。
ぬるい水面をくぐるような、わずかな抵抗が手首を撫でる。
そのまま身体ごと帳を抜け、僕は辺りの気配を探りながら人気のない道を進んだ。
「……ん?」
足が止まる。
今、一瞬だけ。
遠くから、よく知っている呪力を感じた気がした。
「…………」
もう一度、意識を集中させる。
けれど、気配はすぐに消えてしまった。
気のせい……?
いや。
あれは――。
「五条先生……?」
別で動いてるって言ってたけど、先生もこっちに来てるのだろうか。
気配を感じた方へ歩き出すと、前方の路地から、小さな男の子が飛び出してきた。
リュックを胸に抱えたまま、必死にこちらへ走ってくる。
顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「どうしたの?」
「お、お姉ちゃんが……!」
「お姉ちゃん?」
「あっち……! 怖い女の人がいて……お姉ちゃんが僕を助けてくれたの!」
男の子が震える指で、走ってきた路地の奥を指さす。
「君はこのまままっすぐ走って。黒い壁を通り抜ければ、スーツを着た人が助けてくれるから」
「でも、早く助けないと……」
「大丈夫。僕がその人を助けに行くよ」
「……っ、うん!」
男の子が帳の外へ向かって走り出す。
僕はそれを確認すると、すぐに路地へ駆け込んだ。
角を曲がった、その先――。