第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
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「――淫魔?」
聞き慣れない言葉に、僕は思わず聞き返した。
その日訓練を終えた僕は、突然日下部先生に呼び止められていた。
差し出された資料の一番上には、『淫魔による人的被害について』と書かれている。
「最近、都内で原因不明の衰弱者が相次いでるのは知ってるな?」
「はい。聞いています」
「その原因が、どうやらこいつららしい」
日下部先生が、僕の持つ資料を指先で軽く叩く。
ページを捲ると、数枚の写真が挟まれていた。
眠り込んだまま目を覚まさない人。
病院のベッドに横たわる人。
その下には、被害に遭った日時や場所が細かく記されている。
「人間から……精気を奪う?」
「ああ。連中はそう呼んでるらしい。俺たちで言えば、人間から漏れ出す呪力みたいなもんだな」
「この、契約っていうのは……?」
資料の中にあった文字が目に留まる。
どうやら淫魔は、人間と契約を交わしたうえで精気を得る存在らしい。
「淫魔は昔から、人間から漏れ出す負のエネルギーを吸って生きてきた。結果的に、それが呪いとして溜まるのをある程度抑えてたってわけさ」
「じゃあ、呪術界とは敵じゃないんじゃ……」
「本来はな。淫魔とは、長いこと住み分けて共存してきたようなもんだ。だが最近は、さすがに見過ごせねぇほど被害が増えてる。それで上が動いたってわけだ」
僕はもう一度、手元の資料へ目を落とした。
「でも、どうして急に……」
「今日になって、連中の活動場所や契約者に関する情報が一気に入ったらしい」
「一気に?」
「詳しい出所までは俺も知らん。とにかく、その情報をもとに上が対応を決めた。……ってわけで、乙骨。急で悪いが、今から現場に向かってくれ」
「今からですか?」
「ああ」
資料の中の『淫魔』という二文字を見つめる。
呪霊とは、少し違う。
人間と言葉を交わし、契約まで結ぶ存在。
それでも、人を傷つけるのなら。
僕たちが止めなければならない。
「わかりました」
「悪いな。補助監督が下で待ってる」
「はい」
資料を閉じかけて、ふと一つ気になった。