第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
「ど、どんな方……なんですか?」
「そんなに気になるなら、教えてあげてもいいけど?」
「は、はい!」
先生は面白そうに僕を見ると、口元を緩めた。
「最近、拾ったばっかの子なんだけどさ」
「……ひ、拾った?」
「僕が帰るとすぐ迎えに来るし、寂しがり屋だし。放っておくとすぐ拗ねるしね」
「…………」
これは。
なんというか。
「僕の気を引こうとして、あの手この手で迫ってくるし」
「……迫ってくる?」
「おやつあげるとすごい喜ぶし」
「…………!」
「尻尾もすっごい素直」
「…………え?」
尻尾?
……やっぱり犬なの?
「……先生」
「なに?」
「それ……犬の話ですか?」
「さあ?」
「さあって……」
「どっちだと思う?」
五条先生は悪戯が成功した子どもみたいに笑った。
わからない。
余計わからなくなった。
犬なのか、恋人なのか、それとも両方(?)なのか。
そうこうしているうちに、車は先生のマンションの前へ到着した。
「じゃ、伊地知、憂太。お疲れー」
「あ、はい。お疲れ様でした」
「お、お疲れ様です……」
五条先生は軽く手を振ると、さっさと車を降りていく。
軽い足取りで、そのままマンションのエントランスへ消えていった。
「…………」
「…………」
僕は閉まったドアをしばらく見つめたあと、運転席の伊地知さんへ視線を向ける。
「……伊地知さん」
「はい?」
「伊地知さんは、どっちだと思いますか?」
「……何がですか」
「犬か、恋人か」
「…………」
伊地知さんの眉間に、深い皺が寄った。
「乙骨くん」
「はい」
「私は、五条さんの私生活について考えないようにしています」
「えっ」
「その方が、精神衛生上いいので」
「…………」
「乙骨くんにもおすすめします」
伊地知さんはそう言って、静かに車を発進させた。
結局、答えはわからないまま。
だけど。
五条先生があんなふうに嬉しそうに帰っていく理由があることが、なんだか少しだけ嬉しかった。