第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
隣で機嫌良さそうに鼻歌を歌い始めた先生を見ながら、僕は確信した。
……間違いない。
これは、絶対にマンションに誰かいる。
でも、だからって、恋人とは限らないよな。
ペットって可能性もあるのかな。
先生、犬が好きだって聞いたことあるし。
スマホを見てニヤニヤしているのも、可愛い飼い犬の写真を見てデレデレしている顔だと言われれば、そう見えなくもない。
……だったら返事を返すのはおかしいか。
じゃあ、爪を綺麗にしてたのは?
そんなことを考えながら、つい隣の先生をじっと見てしまう。
「何? 憂太」
「えっ」
「さっきから僕のこと見てるけど。顔になんかついてる?」
「い、いや! 何もついてないです!」
僕は、慌てて視線を逸らす。
先生は不思議そうに首を傾げていたが、またスマホへ視線を戻した。
だめだ、気になる。
最近の五条先生の変化の理由。
マンションで待っているのは、女の人なのか、それとも犬なのか。
もう一度、横目で隣の先生を見た。
聞くなら。
今しかないんじゃないか。
実際に目の前でこんな先生を見せられたら、どうしても気になる。
「あ、あの……先生」
「んー?」
スマホから目を離さないまま、気だるげな返事が返ってくる。
僕は膝の上でぎゅっと拳を握り、意を決して口を開いた。
「こ、恋人ができたんですか?」
勇気を振り絞って尋ねた瞬間、車内にぴたりと沈黙が落ちた。
運転席の伊地知さんが、ビクッと肩を大きく揺らし、バックミラー越しに、ぎょっとした顔で僕を見るのがわかる。
『乙骨くん、なんて恐ろしいことを聞くんですか!?』という伊地知さんの心の声が聞こえた気がした。
「あ、いや……あの、最近先生が急いで帰ることが多いって、みんなで話してて……っ」
や、やっぱり直球すぎたかな。
先生とはいえ、さすがにプライベートすぎる話題だっただろうか。
「……恋人、ねぇ」
先生がその単語を口の中で転がしながら、窓の外へ視線を向けた。
「まぁ、そんなとこかな」
「「……えっ」」
僕と伊地知さんは、同時に息を呑んだ。