第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
そのまま二人揃って地面へ倒れ込む。
鈍い音が響き、淫魔の頭が地面にぶつかった。
「いったぁ……」
私も肘と膝を盛大に打ったけれど、今はそれどころじゃない。
顔を上げると、淫魔は頭を打ったせいか、一瞬動きを止めている。
今しかない。
「今です! 走って!」
男の子がびくりと身体を震わせた。
「でも、お姉ちゃんが……」
「私は大丈夫だから! 早く!」
大丈夫じゃないけど。
この後、絶対めちゃくちゃ怒られる。
土下座したら許してもらえるかな。
男の子は迷ったように私を見たあと、ぎゅっとリュックを抱きしめる。
そして、路地の出口へ向かって走り出した。
よかった。
これで、この淫魔も諦めるだろう――。
「この……っ!」
髪を強く掴まれた。
「痛っ!」
そのまま地面へ引き倒される。
淫魔の顔から、さっきまでの余裕は完全に消えていた。
「舐めた真似してくれるじゃない」
「……っ」
怒ってる。
ものすごく怒ってる。
まずい。
土下座しても、許してくれないかも。
「あんた……そんなに人間が大事?」
「…………」
「なら」
淫魔の口元に、薄い笑みが浮かんだ。
「あんたから精気をもらおうかしら」
淫魔の手が私の喉元を掴んだ。
逃れようと身体を捩るけれど、反対の手で肩を地面に押さえつけられ、起き上がることもできない。
「なにを――」
淫魔の尻尾が持ち上がり、その先端が細く尖っていく。
そう見えた、次の瞬間。
胸元に、焼けるような痛みが突き抜けた。
「――っ、あぁっ!!」
淫魔の尻尾が、服ごと胸元に深く突き刺さっている。
そして、そこから身体の奥を、強烈な力で引っ張られるように、精気を吸い上げられていた。
「……っ!!」
全身から、一気に力が抜けていく。
息を吸うことさえ、うまくできない。
さっきまで身体いっぱいに満ちていた五条さんの精気が、どんどん身体の外へ引きずり出されていく。