第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
これが。
奪うってことなんだ。
痛い。
怖い。
精気を吸い上げられるたびに、命まで一緒に削られていくようだった。
視界が霞み、目の前の淫魔の顔さえ輪郭を失っていく。
角も、羽も、さっきまで活躍してた尻尾も。
形を保てなくなったのか、薄く透け始めている。
「……ご……」
五条さん。
名前を呼びたいのに、口から漏れたのは掠れた息だけ。
最後に、会いたかった――。
ヒュッ、と鋭い音がした。
閉じかけた視界の中で、淫魔の首が宙を舞う。
そのまま、私のすぐそばに落ちた。
首を失った身体がぐらりと傾き、砂のように崩れ、跡形もなく消えていった。
「……あれ?」
知らない男の人の声がした。
「今、一瞬だけ……五条先生の気配がしたような気がしたんだけど」
五条、先生……?
霞む視界の向こうに、人影が見える。
白い服。
黒い髪。
手には、長い刀。
(……誰……?)
男の人は私のすぐそばまで来ると、膝をつく。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら、男の人が私へ手を伸ばしかけるが、途中で止まる。
代わりに、ひやりと冷たいものが首元に触れた。
「……っ」
刀の刃が、私の喉元へ向けられている。
男の人は刀を構えたまま、じっと私を見下ろした。
「あなた……本当にさんですか?」
どうして。
どうして、私の名前を知っているの――。
聞きたいのに、もう声が出ない。
男の人の姿も徐々に滲んでいく。
。
それは、五条さんが私にくれた名前。
五条さんだけが知っているはずの名前。
なのに。
どうして、あなたが――。
その答えに辿り着く前に、私の意識は暗闇へと沈んでいった。
𓂃 勿忘草の悪魔 𓂃
── to be continued.