第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「なんだ。同族か」
淫魔はそう吐き捨てると、何事もなかったように男の子へ向き直る。
私は咄嗟にその手を遮り、男の子の前へ立った。
「……何よ」
「あなた、何してるんですか」
「見ればわかるでしょ」
「この子と、契約したんですか?」
「契約?」
淫魔はおかしそうに鼻で笑った。
「こんな時に、そんな悠長なこと言ってる場合かしら」
「……え?」
「呪術師に追われてるのよ。こっちは精気が足りなくて死にかけてるの。契約だの合意だの、言ってられないわ」
「ですが、この子はまだ子どもです」
「だから何」
淫魔の尻尾が、苛立ったように地面を打った。
「子供でも人間でしょ。精気はある」
「契約してない相手や子供から奪うのは禁止されています」
そう言いながら、私は背中の後ろにいる男の子を庇うように両手を広げた。
「人間を庇う気? どきなさいよ」
「嫌です」
「……本気で邪魔するつもり?」
同じ淫魔を相手に、こんなふうに立ちはだかることになるなんて思わなかった。
できることなら、戦いたくない。
私だって、同族を傷つけたいわけじゃない。
だけど、この子が傷つけられるのを黙って見ていることもできなかった。
「この子から精気を奪うなら……私が、止めます」
淫魔は呆気に取られたように目を瞬いた。
けれど、すぐにその表情から笑みが消えていく。
「……今年の新人は、教育がなってないのね」
次の瞬間、目の前から淫魔の姿が消えた。
「え――」
脇腹に、激しい衝撃が走る。
「っ、あ……!」
身体が横へ吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられた。
何をされたのか、まるでわからなかった。