第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
なんだ。
私、何を想像してたんだろう。
『大事な子』の写真が壁一面に貼ってあるとか。
思い出の品がずらっと並んでいるとか。
……いや、それはそれで怖いけど。
じゃあ、どうして五条さんはあんなに怖い顔をしたんだろう。
どうして、ここだけは入ってはいけない場所みたいにしていたんだろう。
そう思いながら部屋を見回した時。
部屋の隅に、一つだけ段ボール箱が置かれている。
きれいに整えられたこの部屋で、それだけが妙に浮いて見えた。
吸い寄せられるように近づき、箱の前にしゃがみ込む。
蓋はテープで封をされているわけでもなく、ただ折り重ねられているだけだった。
開けようと思えば、簡単に開けられる。
「…………」
だめ。
ここに入っただけでも、十分すぎるほど五条さんとの約束を破っている。
これ以上は、本当にだめだ。
そう思っているのに。
もし、この中に。
五条さんの『大事な子』に関するものが入っていたら――。
「あー、だめだめ!」
ぶんぶんと首を振る。
五条さんが知ったら、今度こそ本当に嫌われるかもしれない。
けれど、尻尾は私の迷いなんてお構いなしに、器用に段ボール箱の蓋の隙間へ潜り込んだ。
「だめだってば! なんでいつも私より欲求に忠実なの!?」
慌てて尻尾を掴もうとするけれど、するりと逃げられる。
そして、とうとう蓋が少しだけ浮き上がった。
「ま、待って待って待って……っ!」
その瞬間――♪♪♪
「ひぃっ!?」
突然鳴り響いたスマホの着信音に、身体が飛び上がった。
尻尾も驚いたようにびくんと跳ね、段ボール箱から離れる。
「し、心臓止まるかと思った……」
胸を押さえながら、スマホをポケットから取り出す。
画面に表示されていた名前を見て、私は目を瞬いた。
――先輩。
先輩?
こんな時にどうしたんだろう。
「……もしもし? せんぱ――」
『新人ちゃん!? 今どこ!?』
「え……契約者さんの家ですけど」
『よかった……まだ無事なのね』
「無事って、どういう……」
『呪術師よ』
先輩の声が、珍しく震えていた。
『淫魔が、次々に祓われてるの』