第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
だめよ、。
五条さんは、あの部屋に入ってほしくないのだ。
契約者さんの秘密を勝手に覗くなんて、専属淫魔として最低な行為。
――ここで、私の頭の中に二人の私が現れた。
『だめ! 絶対だめ! 五条さんとの約束を破るなんて最低よ!』
白い服を着て、頭に輪っかまで浮かべた天使の私が、必死に首を振っている。
(……いや、私、淫魔なんだけど。なんで頭の中に天使いるの?)
自分の脳内ながらツッコミを入れたくなっていると、反対側にもう一人の私が現れた。
いつもの私より三割くらい悪そうな顔で、尻尾をいじりながら反論する。
『でも、ちょっと見るだけならよくない?』
『よくない!』
『だって気になるでしょ? “大事な子”だよ?五条さんがあんな顔で思い出すんだよ』
『気になるけど! だからって勝手に覗いていい理由にはならないわ!』
『写真一枚くらい見るだけなら、バレないって』
『そういう問題じゃないの!』
『本当は、羨ましくて、嫉妬で頭がおかしくなりそうなくせに。ほら、入っちゃいなよ。どうせ私たち、欲求に忠実な淫魔なんだから』
『…………』
天使の私がぐうの音も出ずに黙り込んだ。
……弱い。
私の天使、そもそも私が淫魔なせいか、めちゃくちゃ弱い。
ちょっとだけなら。
ちょっと、見るだけ。
そう自分に言い訳をして、ゆっくりと廊下へ足を踏み出す。
一歩。
また一歩。
近づくたびに、心臓の音が大きくなっていく。
やめなきゃ。
戻らなきゃ。
そう思うのに、足は止まってくれない。
あの扉の前に立ち、ドアノブを見つめる。
「……ごめんなさい、五条さん」
意味のない謝罪を呟いてから、ドアノブへ手を伸ばした。
鍵はかかっていない。
誰もいないとわかっているのに、忍び込むようにそっと部屋へ足を踏み入れた。
そこは、拍子抜けするほど普通の部屋だった。
えっちな本が並んでいるわけでも。
誰かの写真があるわけでもない。
大きなデスク。
壁際の本棚。
座り心地の良さそうな椅子。
ピッタリと閉じられたカーテン。
どちらかといえば、書斎のような部屋だった。