第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
そういえば。
いつも私は、五条さんにキスをしてもらって。
触れてもらって。
今日だって、私ばかり気持ちよくしてもらった。
……これって、専属淫魔としてどうなんだろう。
淫魔は契約者さんの欲求を満たさなきゃいけないのに。
「……あの、五条さん」
「ん?」
「いつも、してもらってばかりなので……えっと……」
恥ずかしがっている場合じゃない。
これは仕事。
契約者さんの欲求を満たすのも、淫魔の立派な役目なんだから。
私はペットボトルをぎゅっと握りしめ、意を決した。
「きょ、今日は……私が、その……口で……」
「ダメ」
「まだ最後まで言ってません!」
「言わなくてもわかるって」
五条さんは即答すると、楽しそうにけらけら笑った。
「、絶対下手そうだし」
「ぶっ……!」
あまりにも失礼な一言に、五条さんを睨む。
「や、やったことないんだから、下手かどうかなんてわからないじゃないですか!」
「ほら、やったことないんじゃん」
「動画見て勉強もしました! 後は、実践すれば――」
「僕で練習しようとしないでくれる?」
「契約者さんなんだからいいじゃないですか!」
「やだよ。噛まれたら嫌だもん」
五条さんは笑いながら、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「は大人しく精気もらってればいいの」
「でも、それじゃあ私ばっかり……」
「いいんだって」
五条さんが、指で私の頬を軽くつつく。
「僕がしたくてやってんだから」
「……っ」
また。
そういうことを、何でもないみたいに言う。
せっかく落ち着きかけていた心臓が、またうるさくなった。
そんな私を知ってか知らずか、五条さんはテーブルの上に置いてあったスマホを手に取った。
「さて、と」
画面を確認しながら、ソファから立ち上がる。
「じゃ、そろそろ僕、高専戻るね」
「……はい」
もう、行っちゃうんだ。
仕方ない。
五条さんは呪術師で、先生で。
私の契約者さんでいる以外にも、たくさんの役目がある人だ。
わかっているのに。
さっきまであんなに近くにあった体温が、離れていくのはやっぱり寂しかった。