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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**






水族館を出る頃には、空が淡い夕焼け色に染まり始めていた。



「いやー、楽しかった。は?」

「た、楽しかったです。これも……ありがとうございました」



五条さんが買ってくれたペンギンのぬいぐるみを抱きしめながら、私は小さく答えた。


朝から甘いものを浴びるように食べさせられ、水族館を端から端まで歩き回り、イルカショーでは最前列で盛大に水を浴びた。
だけど、五条さんだけはなぜか濡れていない。

やっぱり、五条さんは不思議な人だ。


今日あったいろんなことが、まだ頭の中をぐるぐる回っている。
私はどこか、ふわふわした気分のままだった。



「」



隣を歩いていた五条さんが、ふいに私の名前を呼ぶ。



「最後に、もう一か所だけ寄っていい?」

「もう一か所……?」

「うん。ちょっと歩くけど」



五条さんはそう言って、駅へと向かう人の波から外れ、海沿いの静かな遊歩道の方へと私の手を引いた。
私の歩幅に合わせるように、五条さんは坂道を登っていく。


坂道を登りきった先の、小さな木立を抜けると。



「はい、到着」

「……わぁっ」



目の前には、夕暮れの海が広がっていた。


水族館の水槽とは違う。
ガラス越しじゃない、本物の青。
潮の匂いを含んだ風が、頬を撫でていく。



「……ここは?」

「綺麗でしょ。昔、任務の帰りに偶然見つけてね」



五条さんはサングラスを外した。
夕暮れの海を映した青い瞳が、どこか遠くを見ている。



「たまに来るんだよね。思い出したくなる時に」



思い出したくなる。


何を。
誰を。

聞きかけて、言葉を飲み込んだ。


五条さんの横顔が、あまりにも静かだったから。
さっきまで水族館ではしゃいでいた人と同じ人とは思えないくらい。


(沖縄の話をしていた時と同じだ……)


私は何も言えないまま、そっと視線を落とした。
足元で、小さな青い花がかすかに揺れている。



「……あ」


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