第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「くくっ……最近の子供はませてるねー」
「びっくりしました……私、人間のこと、まだまだ勉強が足りなかったようです」
「何が?」
「子どもなのに、あそこまで深い知見を持っているなんて……師範とお呼びしたほうがいいのでしょうか」
淫魔としてのプライドが粉々に砕け散り、私が本気で落ち込みながら呟くと、五条さんは「師範って!」とさらに吹き出した。
「……っ、なんでそこで笑うんですか!」
「いやー、って相変わらずズレてるよね」
「ず、ズレてません! 私は真剣なんです!」
「はいはい」
五条さんは笑い声をこらえきれないまま、しゃがみ込んだままの私に向かって手を差し出した。
「行くよ、。デートの続き」
「……っ」
デート。
これ、本当にデートなんだ。
五条さんと、デート。
デートって、特別な二人がすることって、先輩が言っていた。
専属淫魔として認められたってこと?
差し出されたその手に自分の手を重ねると、五条さんは軽々と私を引き上げる。
立ち上がったあとも、五条さんは私の手をぎゅっと繋いで離さなかった。
「もうすぐイルカショー始まるんだよねぇ。急がないと、いい席取られちゃう」
そう言いながら、五条さんが私の手を引いて歩き出す。
私は繋がれた手から、どうしても目を離せなかった。
昨日はただ、この手を握ることだけ許してもらえれば、それでいいって思っていたのに。
今は。
もっと五条さんのことを知りたい。
もっと私の名前を呼んでほしい。
もっと、こうして笑っている顔を見ていたい。
もっと五条さんのそばにいたい。
五条さんといると、どんどん欲張りになっていく。
『ほんとの気持ち、かくしちゃだめなんだよ』
さっきの男の子の言葉が、頭の中で繰り返されていた。
ほんとの気持ち。
それって、なんだろう。
この欲張りな気持ちのことなのかな。
わからない。
自分のことなのに、全然わからない。
胸の奥で、どんどん大きくなっていく何か。
あの男の子なら、これをなんと呼ぶのだろう。