第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「五条さん!?」
思わず見上げると、五条さんは男の子に向かってにこにこと笑っている。
「じゃあ、お兄さんとお姉さんは、パパとママみたいに好き同士ってこと?」
「す、好き――っ!?」
今度は声だけじゃない。
心臓まで盛大に跳ね上がった。
好きなんて。
私、淫魔だよ。
人間から精気をもらうために契約しているだけで、そういう感情とは別のところにいるはずで。
それなのに。
なんで今、心臓がこんなにうるさいの。
「そ、そそそそんなわけないですっ! これは契約上の、その、健全な交流活動で……!」
男の子が不思議そうに首を傾げている。
だめだ。
子供に説明するには、難しすぎる単語を選んでしまった。
私たちの関係を、どう説明したら……。
「お姉さん、ほんとの気持ち、かくしちゃだめなんだよ」
「へ?」
「ママがパパによく言ってるー。すなおになるのが、カンケイが長く続くひけつなんだって」
私は衝撃で固まった。
私、人間の五歳児から契約関係を長続きさせるための指南を受けてる!?
彼は、私と五条さんの契約の行く末を心配してくれているのだろうか……!?
「おー、君いいこと言うね。将来有望」
ぽかんとする私の隣で、五条さんが肩を震わせて笑っていると。
「翔ー!」
少し離れたところから、女性の声がした。
男の子がぱっと振り返る。
「あ、ママが呼んでる」
そして、私たちに向かって手を振った。
「じゃあね、デートがんばってねー!」
「だから、デートじゃ……っ」
言い終わる前に、男の子は母親の方へ駆けていってしまった。
残された私は、しゃがみ込んだまま呆然とする。
嵐が去った。
たぶん今、私はとんでもないものに遭遇した。
人間の子ども、恐るべし。