第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「学生の頃にさ、沖縄の水族館に行ったことがあってね」
「沖縄、ですか」
「そ。すっごい綺麗だったから」
そう話す五条さんは、目の前の水槽を見ているはずなのに、もっとずっと遠くを見つめているような気がした。
「……今日は、なんか来てみたくなってね」
ぽつりと零れ落ちたその声は、どこか優しくて、ほんの少しだけ寂しそうで。
五条さんが何を思い出しているのか、私にはわからない。
でも、その横顔があまりにも綺麗で。
私はもう一度、五条さんから目を逸らせなくなってしまった。
「ねーえ。お兄さん、お姉さん」
不意に、足元から小さな声が聞こえた。
「……え?」
視線を落とすと、サメのぬいぐるみを抱えた男の子が、私たちを見上げていた。
五、六歳くらいだろうか。
水槽の青い光を受けて、丸い瞳がきらきらしていた。
私はその場にしゃがみ込み、男の子と目の高さを合わせる。
「どうしたの? 迷子?」
「ううん。ママ、あそこにいる」
男の子が指さした先には、少し離れたところで電話をしている女性が見えた。
「そっか。でも、あんまりママから離れると心配しちゃうよ」
けれど男の子は、私の注意なんて耳に入っていないようだった。
私と五条さんの顔を交互に見比べると、突然、無邪気に口を開く。
「お兄さんとお姉さん、デート?」
「でっ……!?」
思いがけない質問に、声が裏返った。
「ち、違っ……これは、その、特別課外活動って言って……!」
「とくべつ、かがいかつどー?」
「そう! 契約者さんのことをよく知るために――」
「デートだよ」
私の言葉を遮るように、五条さんがあっさりと言った。