第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
尻尾は自分の一部だけど、あたたかくて、優しい。
けれど、それだけではどうしても足りなかった。
本当は、五条さんの声が聞きたい。
名前を呼んでほしい。
「何やってんの、。だから、言ったじゃん」と呆れて笑ってほしい。
「……五条さん」
呼んでも、返事はないことはわかっているのに。
それでも、目を閉じれば、少しだけ五条さんがそばにいるような気がしてしまった。
シーツに残った匂いを、もう一度だけ吸い込む。
遠くで、誰かが私の名前を呼んだ気がした。
。
その声に引かれるように、意識が沈んでいく。
頬を撫でる心地よい風に、私は目を開けた。
ここ、どこ。
私、もしかして死んじゃったの?
足元には、小さな青い花が揺れている。
名前も知らない花。
なのに、なぜかとても懐かしい気がした。
『ほら、置いてくよ。』
声のした方を振り返るが、そこには誰もいなかった。
。
それは、五条さんがつけてくれた名前のはずなのに。
もう一度、名前を呼んで欲しくて耳を澄ませる。
すると、胸の奥に小さな灯がともったように、じんわりと温かさが広がり始めた。
冷えきっていた指先から、少しずつ体温が戻ってくる。
さっきまで指一本動かす気力もなかったのに、身体が嘘みたいに軽くなっていく。
その温かさに触れるたび、目の前の景色が少しずつほどけていった。
青い花の輪郭が、淡い光に溶けるように滲んで。
頬を撫でていた風も、徐々に遠くなる。
代わりに、唇に触れている柔らかな感触だけが、次第にはっきりしていった。
甘くて。
あたたかくて。
まるで、さっきまで探していた声が、そのまま形を変えて触れているみたいだった。