第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「つ、疲れたので……お風呂、入ってきます!」
私は五条さんの横をすり抜けて、バスルームへと逃げ込んだ。
バタンと勢いよく扉を閉め、内鍵をかける。
扉一枚隔てただけなのに、ようやく息ができた気がした。
「、なんかあった?」
ドアノブが回される。
けれど、鍵がかかっていることがわかると、五条さんは小さく息を吐いた。
「僕、明日から出張でしばらく帰ってこれないよ? だから、今日のうちに――」
「た、たっぷりいただいているので……っ。しばらくは、問題ない、です……! 出張、気をつけて行ってきてください」
五条さんの言葉を遮ってしまった。
その先を聞いてしまったら、きっと断れなくなる気がしたから。
「がいいって言うなら、僕はいいけど……」
そう言って、五条さんはドアの前から離れていった。
足音が遠ざかっていくのを聞きながら、私はその場にずるずるとしゃがみ込んだ。
これでいい。
これでいいんだ。
五条さんの精気は甘くて、あたたかくて、安心してしまう。
でも、私は見てしまった。
知ってしまった。
精気を奪われすぎた人間が、どうなるのか。
淫魔が、何をする存在なのか。
五条さんから精気をもらうということは、五条さんから奪うということ。
その精気を、会社に差し出すということ。
そんなこと、できないよ。
会社からは「もっと回収しろ」と言われているのに。
淫魔としての役目を、自分から放棄している。
会社には、最低限の精気を提出しよう。
足りない分は、自分を削ればいい。
私が少し我慢すれば、それで済むんだから。
そう自分に言い聞かせながら、私は膝に額を押しつけた。
どうして私は――。
淫魔として生まれてきてしまったんだろう。
最初から、はっきりしていたはずなのに。
五条さんは、私たちを祓う側の人で。
私は、祓われる側の淫魔で。
専属契約をしても。
名前をつけてもらっても。
同じ部屋で過ごしても。
キスをしてもらっても。
その線だけは――どれだけ手を伸ばしても、絶対に越えられないのだと。