第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「――、おかえり。出かけてたの?」
ソファに深く腰掛けていた五条さんが、こちらを向いてひらひらと手を振った。
五条さんの顔を見たら、一瞬息ができなくなった。
平常心、平常心。
気づかれちゃだめ。
「ちょっと、コンビニに……行ってて……」
五条さんは、私の手元に視線を滑らせた。
「コンビニ行ったのに、何も買わなかったの?」
「……ぁっ」
そうだ、あの時落としちゃったんだった。
コンビニ行って、何も持ってないなんて変だよね。
なんとか、誤魔化さなきゃ。
「のことだから、レジに商品置き忘れてきちゃった?」
「ち、違いますよっ」
普段と変わらず、私を揶揄う五条さん。
さっきの路地裏であったことなんて、最初からなかったみたいに。
「えっと……っ、コピー機を使おうと思って……」
「何をコピーするつもりだったの?」
「……白地図を」
「スマホのマップあるじゃん」
「か、紙派なので……っ。自分の足で歩いて、正確な地図を作りたいなって……」
「平成の伊能忠敬か」
うぅ、もう自分でも何を言っているかわからない……。
嫌な汗をかいている私をよそに、五条さんはソファの背もたれから身を起こし、私に向かって手を伸ばしてきた。
「それなら体力いるでしょ。おいで、。精気分けてあげる」
いつもなら、嬉しいお誘い。
五条さんに「おいで」と呼ばれるだけで、尻尾が勝手に揺れてしまうくらい。
なのに、今は。
伸ばされたその手が、同族の片翼を引き裂いた手と重なって見えて。
私は伸ばされた手を取るどころか、一歩後ずさってしまった。
「……?」
「きょ、今日は……だ、大丈夫ですっ! 私、お腹いっぱいですから……っ!!」
嘘だ。
全然、大丈夫じゃない。
お腹いっぱいでもない。
「この前みたいに、気絶させたりしないから。ほーら」
ソファから立ち上がり、五条さんが近づいてくる。
だめ。
今は、こっちに来ないで。