第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「さて。教えてよ、君たちの『会社』のこと」
「だ、れが……呪術師なんかに、言うか……っ!」
「いいのかなー、そんなこと言って。ここ最近、人間から精気を大量に回収してるみたいだけど、何かいいことでもあるのかな?」
淫魔がギリッと歯を食いしばり、五条さんを睨みつける。
その目は、最後まで答える気がないと言っていた。
五条さんはため息を吐きながら、彼女の片翼を掴むと――躊躇いもなく、根元から引き裂いた。
「――ギャアアアアアアアッ!!?」
鼓膜を劈くような凄惨な悲鳴が響き渡る。
羽は精気で具現化しているが、私たちにとって身体の一部みたいなもの。
それを虫の羽でもむしり取るみたいに、こんなにもあっさりと引き裂かれてしまう。
彼女の痛みが、自分の背中にまで走ったような気がした。
「早く言えよ、祓うぞー。ま、言っても祓うけど」
絶叫する彼女をよそに、五条さんは引き裂いた片翼をポイッと捨てる。
これが、五条さんの仕事。
私たちを祓う、呪術師の顔。
そこには、私が知っている五条さんはどこにもいなかった。
「……ぁ」
レジ袋がするりと手から滑り落ちる。
カサッ、と乾いた音のあと。
べちゃり、と柔らかいものが潰れる音がした。
透明なカップの蓋が外れて、白い生クリームが中からはみ出している。
五条さんに食べてもらおうと思って買った、生クリームシフォン。
「誰かいるの?」
「……っ!」
五条さんが、こちらをゆっくりと振り向いた。
気づかれた。
どうする?
(見つかる前に、ここから離れなきゃ)
だけど、片翼を失った淫魔がまだ苦しそうにもがいている。
このままじゃ、本当に祓われてしまう。
そうだ。
五条さんにちゃんと話せば、わかってくれるかもしれない。
もうこれ以上傷つけないでって。
この淫魔にも、何か事情があったのかもしれないって。
そう話せば、五条さんなら――。
そう思って、一歩だけ足を踏み出しかけた。
でも、すぐに動けなくなる。
どうして?
どうして五条さんが、私の話だけは聞いてくれるなんて思ってるの?
私たちは契約を結んでいるだけで。
私だって――彼女と同じ淫魔なのに。