第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
「は、はいっ! です!」
『――? お前は217番だろ』
「……っ」
あ、そうだった。
会社での私は、じゃない。
217番だ。
五条さんに何度も名前を呼ばれるうちに、すっかり忘れていた。
久しぶりにその番号で呼ばれると、なぜかひどく他人行儀に感じられた。
『初仕事で専属契約を結んだのは上出来だ。お前には期待している』
「あ、ありがとうございますっ!」
部長に褒められた!
今なら、制服の始末書も大目に見てもらえるかもしれない。
「あ、あの部長、制服――」
『217番、今後は契約者からの精気回収量を増やせ』
「……え?」
『お前が今受け取っている量では足りない』
「で、ですが……マニュアルでは、一度にいただいていい精気の量は決められています。これ以上は、契約者さんの身体に危険が……」
『217番』
ただ番号を呼ばれただけなのに、その声には有無を言わせない圧があった。
『お前の役目は、会社の指示に従い、契約者から精気を回収することだ。判断するのはお前ではない』
「でも……っ」
『お前は淫魔だ。忘れるな』
「……っ」
『近々、お前に『特別な任務』を下すことになるだろう。それまでは契約者を見張り、可能な限り精気を回収しろ』
「あ、あの、部長……それは、どういう――」
部長は私の質問に答えることなく、通話を切った。
ツーツー、という冷たい切断音だけが、聞こえる。
スマホを握りしめたまま、私は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
どうして部長は急に回収量を増やすなんて。
それに、特別な任務ってなに?
……もしかして。
五条さんが呪術師だということに、部長は気づいてるのだろうか。
『呪力を使って、私たちみたいな人外や呪いを祓うのが仕事よ。要するに、私たちの天敵中の天敵』
先輩がそう言っていたけれど。
私が知っている五条さんは、とてもそんな人には見えなくて。
甘党で。
ちょっと意地悪で。
すぐ人のことからかって。
淫魔の私に名前をくれて。
最後まではしてくれないけど、キスはしてくれて。
だけど……たまに少し寂しそうな顔をする人。
そう自分に言い聞かせようとするのに、朝方に血の匂いをさせて帰ってきた五条さんの姿が、頭にちらついて離れなかった。