第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
♢
あの部屋の前で五条さんに止められてから、数日が過ぎた。
私は一人で広いリビングのソファに膝を抱えて座っていた。
テーブルの上には、五条さんがこの前買ってきてくれたプリン。
食べようと思って冷蔵庫から出したのに、蓋を開ける気にもなれない。
私はそのプリンを眺めながら、ふぅとため息をひとつ吐いた。
(聞いたら……答えてくれるのかな)
あの日から、私はあの部屋には近づいていない。
五条さんも、あの部屋のことには一切触れない。
いつも通り私をからかって。
いつも通り甘いものを買ってきてくれて。
いつも通り、私の名前を呼んでくれる。
それなのに、あの部屋のことを思い出すたび、胸の奥が少しだけ重たくなる。
……はっ!?
まさか、えっちな本が置いてあるとか!?
でも、それなら別に私に隠さなくてもいいのに。
だって私は淫魔だし。
そういうものには、むしろ理解がある方だと思うし。
いや、だめだめ。
五条さんにも、知られたくないことくらいあるよね。
うん、もうあの部屋のことは忘れて、別のこと考えよう。
……五条さん、今頃何してるのかな。
今日は、帰ってくるのかな。
帰ってきたら、また「ただいま」の代わりみたいにキスしてくれるのかな。
それとも、今日は疲れてるかな。
あれ?
結局、私……五条さんのことばっかり考えてない?
これは、あれだ。
お仕事。
契約者さんのことをちゃんと気にかけるのも、専属淫魔の大事なお仕事。
だから、五条さんのことを考えてしまうんだ。
……たぶん。
そう自分に言い聞かせた、その時だった。
――ジリリリリリリリッ。
リビングに、けたたましい着信音が響き渡った。
音のした方を見ると、テーブルに置かれた、会社支給の黒いスマホが鳴っていた。
画面に表示された相手を見て、スマホを落としそうになる。
『発信者:部長』
「ぶ、部長……!?」
部長から電話!?
急にどうして!?
顔すら見たことのない、私たち淫魔の上司。
指示はいつも紙の書類やメールで下されるだけ。
だから、部長から直接電話がかかってくるなんて、聞いたこともない。
慌てて居住まいを正し、震える手で通話ボタンを押した。