第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
そして四つ目。
五条さんは、なんと『先生』だった。
五条さんが珍しくリビングのソファでくつろいでいると、彼のスマホが鳴った。
「もしもーし。……あー、伊地知? 恵から聞いたよ。特級呪物無くなってたらしいね」
伊地知。
恵。
特級呪物。
知らない名前と、知らない言葉ばかりだ。
「えー、僕、今とっても忙しいんだけどなー。……わかったよ。特級呪物紛失ってなると、上がうるさいし。すぐ行くって」
電話を切って立ち上がった五条さんに、「お仕事ですか?」と尋ねる。
「んー、なんか生徒が厄介な案件に巻き込まれたみたいでさ。これも教師の仕事」
「えっ!? 五条さんって、先生だったんですか……」
「言ってなかったっけ? 僕はいつだって生徒思いのグレートティーチャーだよ」
目隠しをしてへらへらと笑うその姿は、どう見ても怪しい人にしか見えない。
でも。
電話口で話す時の五条さんの声は、私に向けるものとは少し違っていた。
ふざけているのに、どこか頼もしくて。
この人なら大丈夫だと、相手に思わせるような声だった。
(生徒、かぁ……)
五条さんには、私の知らない顔がたくさんある。
外の世界には、五条さんが大切にしている人たちがいて、五条さんが守っている世界がある。
その中に、私はいるのかな。
……って。
わ、私、何を考えてるんだろう。
私と五条さんは、ただの淫魔と契約者さんなのに。
そう自分に言い聞かせたのに、なぜかほんの少しだけ胸がちくっとした。
そんなふうに、徐々に五条さんとの生活に慣れてきた、ある日のことだった。
「……ふぅ。お掃除完了、っと」
五条さんがお仕事で出かけている間、私は暇を持て余して部屋の掃除をしていた。
ここは無駄に広いから、掃除しがいがある。
長い廊下をモップがけしながら、ふと、一番奥の突き当たりにあるドアの前で足を止めた。