第5章 【五条悟】勿忘草の悪魔 II**
一度だけ、寝ている隙にこっそり布をめくってみようかと手を伸ばしたことがあった。
けれど、触れる直前で「何? 夜這い?」と、こちらを向き、心臓が止まるかと思うほど驚いてやめてしまった。
あの目隠しの下には、どんな瞳が隠されているのか。
それは今の私にとって、一番のミステリーだった。
三つ目。
五条さんは、とても『不規則で変な時間』に帰ってくる。
五条さんはほとんど家にいないと言っても過言ではない。
朝起きたらもういない。
夜になっても帰ってこない。
数日いないこともざらにある。
かと思えば、お昼すぎにふらっと帰ってきたりする。
ある日の明け方、玄関が開くかすかな音で目が覚めてリビングに行くと、五条さんがソファに深く沈み込んでいた。
「五条さん……おかえりなさい」
「ん……。起こしちゃった? ごめんね」
振り返った五条さんから、微かに血の匂いと、焦げたようなひどく埃っぽい匂いがした。
呪術師というお仕事は、私の想像もつかないくらい過酷なものなのかもしれない。
「あ、怪我……」
「んーん。僕の血じゃないから大丈夫」
『僕の血じゃない』。
それなら大丈夫……なのだろうか。
そう思ったけれど、五条さんがあまりにも平然と笑うから、それ以上何も聞けなかった。
五条さんは「ちょっとこっち来て」と手を伸ばし、私の腕を引いた。
向かい合う形で私を膝の上に座らせると、五条さんは私の背中に腕を回し、抱き込むようにして首筋へ顔を埋める。
「少し、充電させて……」
そう呟く五条さんの声は、いつもの飄々とした感じとは違って、わずかに掠れて弱っていて。
背中に回された腕にドキドキしながら、最初はただ固まっていることしかできなかった。
こんなふうに触れてもいいのかわからなかったけれど、私はおそるおそる手を伸ばし、首筋に埋まった白い髪にそっと触れた。
さらさらしていて、柔らかい。
「……お疲れさまです、五条さん」
ぎこちなく髪を撫でると、五条さんの腕に少しだけ力がこもった。
それが嫌じゃないという返事みたいで、私はそのまま、しばらく彼の髪を撫でていた。