第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「「伏黒きゅーん!」」
聞き慣れた、やけに浮ついた声が響いた。
声のした方を見ると、虎杖と釘崎がすごい勢いでこっちに向かってくるのが見えた。
げっ。
なんで、あいつらが……。
そう思う間もなく、左右から腕を掴まれる。
「何よ、その女! 私の瞳に乾杯した夜を忘れたの?」
「俺といる時が一番楽しいって、あれはウソだったの!?」
状況が理解できない。
理解したくもない。
数秒遅れて、五条先生まで現れた。
なぜかサングラス姿で。
バイオリンなんてやってねーし。
そもそも、この人の設定はなんなんだ。
本気で意味が分からない。
「お前ら、いい加減に――」
そう言って腕を振りほどこうとした時、視界の端に小さな影が映った。
息を切らして立ち止まる、。
は、俺と同級生を交互に見ていた。
違う。
これは、そういうんじゃない。
そう言いたかった。
こいつと会っていたことに、深い意味なんてない。
「……じゃ、じゃあ、伏黒くんありがとね」
同級生は虎杖たちの登場に戸惑ったように笑い、俺に軽く手を振った。
そのまま立ち去るのかと思った。
けれど、そいつの足はの方へ向かっていく。
の横でほんの少しだけ足を止めて何かを囁いた後、の顔から表情が消えていった。
あんな顔、今まで見たことがない。
「……?」
ようやく腕を振りほどいて名前を呼ぶと、がこちらを見た。
だけど、俺を見ているのに、俺を見ていないみたいだった。
何かに怯えて。
何かを諦めたみたいな目。
一歩近づこうとしたが、は俺から逃げるように後ずさり、背を向けて走り出してしまった。
今まで、が俺から逃げたことなんてなかった。
どうしたらいいのか分からず、その場に立ち尽くす。
俺はただ、その背中を見ていることしかできなかった。
どうして。
何で俺のことを避ける?
「ちょっと、伏黒! 何ぼさっとしてんのよ! 追いかけなさいよ!」
釘崎の言葉ではっと意識が戻ったが、の姿はもう人混みの向こうに消えていた。