第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「さん、声出せないっていうの本当なの? なんか、そういうの男受け狙ってるみたいで、あざといっていうか」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
男受け。
あざとい。
その言葉と、がどうしても結びつかない。
声が出せなくて、言いたいことを飲み込むしかなかった顔。
急に話しかけられて、ノートを開く前に相手が行ってしまった時の、置いていかれたような目。
伝わらなくて、悔しそうに唇を噛んでいた横顔。
そんなものを、こいつは何も知らない。
知らないくせに。
分かったような顔で、を笑うな。
「離せ」
強めに腕を振り払うと、同級生は少しよろめいて、それから不満そうに唇を尖らせた。
「伏黒くんだって、同情で一緒にいるだけでしょ。中学の時、言ってたじゃない。『あいつの言いたいこと、分かんの俺くらいだろ』って」
そんなことを言った気はする。
けど、それは。
同情なんかじゃない。
義務でもない。
家族だからでもない。
そんなものなら、とっくに手放せている。
いつからかなんて分からない。
ただ、気づけばを探していた。
声のないあいつが、何を言いたいのか。
何を我慢しているのか。
何を見て、何に傷ついているのか。
そういうものばかり、勝手に目が追うようになっていた。
が少しでも安堵した顔を見せると、自分の中で張り詰めていたものが緩むのが分かった。
その一方で、を理不尽に傷つける奴がいれば、本気でそいつを壊してやりたいと思うくらい、冷たい怒りが腹の底に沈んでいく。
それを他人に同情なんて言葉で片づけられるのが、どうしようもなく不快だった。
「あー、うるせえ」
自分でも驚くくらい、声が低くなった。
同級生は怯んだような顔をして、固まった。
「たまにいるよな、お前みたいなやつ。人を下に見ないと、自分の立ってる場所も分かんねえやつ」
「もう連絡してくるな。にも近づくな」
そう言って背を向けようとした、その時だった。