第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「えっとね、これ。画面交換でこのくらいかかったの」
差し出された領収書に書かれた金額を確認して、俺は財布を取り出した。
「これでいいか?」
必要な分だけ金を渡すと、同級生はすぐににこっと笑って受け取る。
「ありがとう。助かる」
「じゃ」
用件は済んだ。
これ以上ここにいる理由はない。
財布をしまい、背を向けようとした時だった。
「え、もう? せっかく会えたんだし、少しくらい話そうよ」
同級生の手が、俺の腕を掴んだ。
「話すことないだろ」
そう返すと、相手は少しだけ唇を尖らせた。
「伏黒くんって、昔からそういうところあるよね。そっけないっていうか」
知らねえよ。
お前が俺の何を知ってるんだよ。
そう言いかけて、飲み込む。
ここで揉めても面倒だ。
「用件が済んだなら、帰る」
「待ってよ。さんと伏黒くんって、どういう関係なの? 付き合ってるとか?」
急に出てきたの名前に、つい同級生の顔を見てしまった。
「……お前に関係ないだろ」
「付き合ってないなら、私にもチャンスあるかなって思って」
その言い方に、余計に気分が悪くなる。
チャンスとか。
なんで、俺とどうにかなれると思ってるんだ。
つーか、思い出した。
こいつ、中学の時……の筆談用のノートを隠して、泣かせたやつだ。
声が出せないのことを裏でコソコソ笑ってやがったな。
「ない」
「即答ひどくない?」
「帰る」
掴まれた腕を外そうとした瞬間、同級生がさらに距離を詰めてきた。
「待ってってば」
掴むだけだった手が、今度は俺の腕に絡みつく。
甘い香水の匂いが近づいて、柔らかい感触が押し当てられる。
気持ち悪い。
そう思ったのが、顔に出たのかもしれない。
「えー、そんな怖い顔しないでよ。ねえ、伏黒くん」
腕に絡みつく力が、さらに強くなる。