第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
ベッドの上で、恵くんが弾かれたようにこちらを向く。
「……なんで……」
その声には、驚きと焦りと。
信じられないものを見たような響きが混じっていた。
違うの。
虎杖くんに頼まれて。
ご飯を渡そうとして。
具合が悪いのかと思って。
そう伝えたいのに、こんな時に限ってノートを持ってきていない。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
今すぐにでも、ここから逃げ出したい。
でも、それ以上に。
さっきの恵くんの声が耳から離れない。
『……っ、……好きだ、……っ』
恵くん。
さっきの「好き」は、誰に向けたものだったの。
恵くんは身体を起こして、慌てて身なりを整える。
「……っ、これは」
恵くんが、何かを言おうとしている。
やだ。
聞きたくない。
さっきの好きの意味を。
恵くんの口から聞いてしまったら、きっと耐えられない。
私は落ちたコンビニ袋もTシャツも拾わないまま、急いで部屋を出ようとした。
「待てって」
けれど、手首を掴まれる。
振り返ると、すぐそこに恵くんがいた。
暗い部屋の中でも分かるくらい、恵くんの顔はひどく焦っている。
「話、聞け」
話。
話って、何?
沙耶香ちゃんと付き合うことになったってこと?
恵くんも、沙耶香ちゃんのこと好きだったこと?
今日、本当はそのために会っていたってこと?
それを、恵くんの口から聞かなきゃいけないの?
そんなの、やだ。
やだよ。
掴まれた手を振りほどこうとしたが、びくともしなかった。
「」
名前を呼ばれるだけで、胸の奥がぎゅっと掴まれる。
名前を呼ぶその声が、優しくて。
苦しくて。
今にも泣き出しそうなくらい、好きで。
だめ。
そんな声で呼ばないで。
まだ私にも何か言ってくれるんじゃないかって、馬鹿みたいに思ってしまう。
私は掴まれていない方の手で、恵くんの胸を押した。
「おい、暴れんな」
離して。
行かせて。
「っ!」
聞きたくない。
言わないで。
聞かせないで。