第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
付き合う。
恵くんと。
沙耶香ちゃんが。
頭の中で、その言葉が何度も何度も反響する。
付き合うって、どういうこと?
それは、恵くんの隣にいてもいい人になるということ。
恵くんに優しくされても、心配されても、それを当たり前みたいに受け取っていい人になるということ。
今までずっと、恵くんの隣にいるのが当たり前みたいに思っていた。
でも違ったんだ。
恵くんの隣に立っていい人は、私じゃなかった。
私がずっと欲しかった場所。
家族だからって、幼馴染だからって、自分に言い聞かせながら、何度も諦めようとした場所。
そこに、沙耶香ちゃんが立つんだ。
やだ。
取らないで。
恵くんを連れていかないで。
胸の奥から黒いものが溢れて止まらない。
沙耶香ちゃんの背中が遠ざかっていくたびに、何かが壊れていく気がした。
「……?」
後ろから、恵くんが私の名前を呼ぶ声がした。
振り返ると、私の姿に気づいた恵くんが少し驚いたような顔でこちらを見ている。
その顔を見たら。
いつもと変わらない、私の大好きな人の顔を見たら。
(やだ、やだ、やだやだやだやだ)
これ以上、ここにいたくない。
恵くんがもう一度私を呼ぶ前に。
私はきびすを返して、無我夢中で走り出していた。