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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


『恵くんの連絡先、教えてって言われて』
『できないって伝えたら、スマホ取られちゃったの』

『それで、返してもらおうと沙耶香ちゃんの手首を掴んだら、沙耶香ちゃんのスマホが落ちちゃって』



書き終えたノートを、おずおずと胸の前に掲げる。
恵くんの視線が、そこに並んだ私の拙い文字をなぞっていく。

一秒、二秒。
文字を読み終えた恵くんは、髪を乱すようにがしがしとかいた。



「……なんだ、そんなことかよ。あいつら、わざと大袈裟に言いやがって」

「あんな囲まれ方してたから、てっきりカツアゲでもされてんのかと思った」



え。
カツアゲって……。
それは、心配しすぎだよ。



「俺の連絡先、なんで教えなかった?」

『大事な個人情報だし』
『本人の許可なく教えちゃだめだと思ったの』



書いて見せると、恵くんは深く息を吐き出した。



「……本当にそれだけか?」



ペンを持つ手が止まる。


それだけ。
それだけ、じゃない。

本当は。
本当はね。

沙耶香ちゃんに連絡先を教えたくなかったの。
恵くんと沙耶香ちゃんが連絡を取るのが嫌だったから。


でも、そんなこと。
私が言っていいことじゃない。

私は恵くんの彼女でもなんでもないんだから。



『恵くん、そういうの嫌いでしょ』
『勝手に連絡先教えられるの』



書いてから、少しだけ迷う。
それから、もう一行書き足した。



『家族だから、わかるよ』



ノートを見せた瞬間、恵くんの目がわずかに揺れた気がした。
でも、それが何の感情なのかは分からない。

恵くんは何か言いかけて、結局口を閉じた。


家族。
自分で書いたくせに。
どうしてこんなに苦しいんだろう。



『やっぱり、Tシャツ買ってくるね』



私は新しいページにそれだけ書くと、ノートを閉じた。

これ以上ここにいたら、泣いてしまいそうだった。
恵くんが何か言う前に、私はカバンと紙袋を抱え直す。



「、おい――」



呼び止める声が背中に届くが、逃げるように商店街の方へと駆け出していた。
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