第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
公園の端にある手洗い場に着くと、恵くんは躊躇うことなく汚れたシャツの裾を掴み、そのまま頭からすっぽりと脱いだ。
(えっ……)
露わになった上半身。
私の目は、吸い寄せられるようにその姿に釘付けになってしまった。
広い肩幅に、引き締まった背中。
無駄な脂肪なんて一つもない、しなやかで逞しい筋肉。
昔は、私と背丈も変わらなかったのに。
いつの間にか、私なんかよりずっと大きくて、強くなっていた。
それは、彼が『呪術師』という危険な世界で、ずっと戦い続けてきた証で。
ただの幼馴染じゃない、一人の「男の人」なんだって、嫌でも思い知らされてしまう。
見ちゃいけない。
そう思うのに、視線を外すことができなかった。
恵くんが蛇口をひねると、冷たい水が勢いよく流れ出す。
その水でシャツを洗うたびに、腕の筋肉が滑らかに動いて。
水飛沫を浴びた肌が、夏の光を反射している。
(……ばか。私、何見てるの)
心臓がさっきとは別の理由でうるさく鳴り始めて、顔に熱が集まっていくのが分かった。
同情されてるって、思い知らされたばかりなのに。
身の程知らずだって、痛いほど分かったのに。
こんな時でも、恵くんの姿にドキドキしてしまう自分が情けない。
カバンからハンドタオルを取り出して、視線をできるだけ逸らしたまま、恵くんに差し出す。
恵くんは濡れたシャツを水で流しながら、タオルを受け取った。
「悪い。あとで洗って返す」
私はぶんぶんと首を振る。
そんなこと、どうでもいい。
今はただ、少しでも何かしたかった。
ごめんねの代わりを、せめてこのタオルに乗せるみたいに。