第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「……それ、のスマホだろ」
沙耶香ちゃんは、言葉に詰まった。
けれど、すぐに困ったような顔を作る。
「あ、あのね。私たち、さんのスマホをちょっと見せてもらおうと思っただけで……」
「それなのに、さんがすごく嫌がって、急に私の手首掴んできて」
沙耶香ちゃんは、そう言って自分の手首を押さえた。
違う。
違うの、恵くん。
そう伝えたくても、声は出ない。
喉の奥が苦しくなるだけで、何も言葉にならない。
「それに、見てよこれ、画面バキバキ! ジュースだって、びっくりして手が滑っちゃっただけで……!」
その言葉に合わせるように、後ろにいた女の子たちも慌てたように頷いた。
「う、うん。急に手首掴まれたらびっくりするよね」
「沙耶香、別にわざとじゃなかったし……」
恵くんは少しだけ黙って、それから私の方を振り返った。
「……そうなのか、」
責める声ではなかった。
ただ、事実を確かめるような、平坦な響き。
(違うの。スマホ取られて、恵くんの連絡先を勝手に見られそうになって……)
必死に首を振って、否定したい。
ノートに書いて、本当のことを伝えたい。
でも。
沙耶香ちゃんに言われた言葉が、呪いのように身体を縛り付けて動けない。
『さんは伏黒くんに同情されてるだけなんだよ』
私がここで否定して、揉め事を長引かせたら。
また恵くんに迷惑をかけてしまう。
ただでさえ、私のせいで服を汚してしまったのに。
そう思ったら、喉の奥が詰まって、ただ俯くことしかできなかった。
恵くんはそんな私をしばらく見ていたが、沙耶香ちゃんの方へ向き直る。
「わかった。スマホは弁償する」
「え? あ、ありがとう、伏黒くん」
「だから……のスマホ、返せ」
沙耶香ちゃんは一瞬だけ顔を強張らせたけれど、すぐに笑顔を作って、私のスマホを差し出した。