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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


「あー、もう。しつこいんだけど」



沙耶香ちゃんが、私の手を振り払おうとした。
その拍子に、沙耶香ちゃんのスマホが、するりと滑り落ちる。

ガツッと嫌な音を立てて、地面に落ちた。



「あっ!」



沙耶香ちゃんの顔色が変わる。
拾い上げたスマホの画面を見て、眉がきゅっと吊り上がった。



「はぁ!? ちょっと、あんたのせいで画面割れたんだけど!! 最悪!」



そんなつもりじゃなかった。
わざとじゃない。
でも、割れてしまったのは本当で。


ごめんなさい。
弁償します。

そう書こうとしてノートに手を伸ばすが、それより先に沙耶香ちゃんが冷たい声で言った。



「喋れないからって、何しても許されると思ってる?」



沙耶香ちゃんは、ベンチに置いていた私のオレンジジュースのカップを乱暴に掴んだ。



「マジでうざい!!」



沙耶香ちゃんの手が大きく振り上げられ、オレンジ色の液体が私に向かって傾いてくる。

避けられない。
そう思って、ぎゅっと目を閉じた。


バシャッと、すぐ目の前で液体が激しく弾ける音がした。
けれど、いつまで経っても冷たい感触は来ない。



……あれ?
冷たくない。
甘酸っぱい匂いだけが、すぐ近くで広がっている。


恐る恐る目を開けると――。


目の前に、恵くんの背中があった。




「ふし……ぐろくん?」



沙耶香ちゃんの声が、さっきまでとは別人みたいに細くなる。

恵くんの白いシャツには、オレンジ色の染みが広がっていた。
肩から胸元にかけて、ぽたぽたと雫が落ちている。

恵くんは私を庇うように立ったまま、沙耶香ちゃんを見下ろした。



「……何してんの?」



低い声だった。
怒鳴っているわけじゃない。
でも、その場の空気が一気に冷たくなった気がした。



「伏黒くん。ち、違うの。これは……あ、私のこと覚えてる? 中学の時、同じクラスだった……」

「それより」



恵くんの視線が、沙耶香ちゃんの手元に落ちる。
そこには、私のスマホが握られていた。


恵くんの眉間の皺が、さらに深くなる。
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