第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「『あいつの言いたいこと、分かんの俺くらいだろ』……だってさ。声が出せない可哀想な子だから、仕方なくお世話してるってこと」
「要するにさ、さんは伏黒くんに『同情』されてるだけなんだよ」
同情。
その言葉が、胸の奥に深く突き刺さった。
恵くんは優しいから。
不器用だけど、誰よりも優しい人だから。
だから、呪いで声が出せない私のことを、見捨てられなかっただけ。
ずっと、私だけが。
一人で勝手に期待して、舞い上がって。
『好き』なんて、身の程知らずな気持ちを抱いて。
恵くんも同じ気持ちだったら、なんて。
(私……馬鹿みたいだ)
視界が、涙で急激に滲んでいく。
俯いて、零れ落ちそうになる涙を必死に堪えていると。
「……あっそ。自分で調べるからいいし」
沙耶香ちゃんの手が私の開いたままのバッグに伸びて、スマホが取り出される。
(あ……っ)
だめ。
返して。
私は慌てて手を伸ばす。
けれど、沙耶香ちゃんはひょいとスマホを持ち上げて私の手を避けると、スマホの画面を私の顔へと向けた。
戸惑って目を見開いた、その一瞬。
画面の鍵マークがカチャリと開いた。
「はい、ロック解除完了っと」
沙耶香ちゃんは悪びれる様子もなく、私のスマホの画面を勝手に操作し始める。
「あー、あったあった。『恵くん』ね」
そして自分のスマホを取り出すと、沙耶香ちゃんが恵くんの連絡先を入力し始めた。
だめ。
返して。
返して。
恵くんにとってはただの「同情」や「義務」からくるものだったとしても。
私だけが勝手に期待していただけだったとしても。
こんなふうに勝手に触られて、私の知らないところへ持っていかれるのだけは。
(絶対に、やだ……っ!)
私はベンチから立ち上がって、沙耶香ちゃんの手首を両手でぎゅっと強く掴む。
「ちょっと、何!?」
返して。
恵くんの連絡先、見ないで。
声にならない言葉の代わりに、私は何度も首を振った。