第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
これは、ただの筆談用のノートじゃないのに。
恵くんが私のために選んでくれて。
これから、大事な言葉を少しずつ書いていくはずだったノートなのに。
それに、人の連絡先を勝手に教えちゃいけない。
でも、教えたくない一番の理由は――。
沙耶香ちゃんが恵くんに連絡するのも。
恵くんが沙耶香ちゃんに返事をするのも。
二人が私の知らないところで話すのも。
(そんなの、絶対やだ)
私はふるふると首を振った。
書けない。
そんなの、書けるわけがない。
教えられない。
教えたくない。
その意思だけは、どうしても曲げられなかった。
『教えたくない』
私が書いた文字を見た瞬間、沙耶香ちゃんたちの顔から笑顔が消える。
「……はぁ?」
隣にいた女の子たちも、冷ややかな目で私を睨みつけた。
「ありえないんだけど。ちょっと連絡先聞いただけじゃん」
「てか、何様なの?」
冷たい言葉が、次々と降ってくる。
だけど、これでいい。
恵くんだって、勝手に自分の連絡先を教えられたら嫌なはずだ。
沙耶香ちゃんはしばらく私を見下ろしていたけれど、ふっと息を吐く。
「……まぁ、いいけど」
そう言うと、沙耶香ちゃんは何の断りもなく、私の隣に腰を下ろした。
ベンチが、ぎしりと小さく鳴る。
「じゃあ代わりにさ……伏黒くんが中学の時に言ってたこと、教えてあげようか」
恵くんが、言っていたこと?
何それ……初めて聞いた。
「私ね、昔、伏黒くんに聞いたことあるんだよね。なんでいつも、さんと一緒にいるの? って」
「そしたら伏黒くん、何て言ったと思う?」
沙耶香ちゃんは足を組み、私の顔を横から覗き込むようにして笑った。