第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「今日は伏黒くん、一緒じゃないんだ? 昔は、金魚のフンみたいにくっついてたのに」
沙耶香ちゃんが、キャハハと明るく笑った。
その隣の二人も、つられるように笑う。
「何それー」「沙耶香、言い過ぎー」
三人の笑い声を聞いていると、中学の頃の教室に引き戻されたような気がした。
中学の頃の私は、いつも誰かの少し後ろにいた。
ノートに書いて自分で伝えられることもあったけど、急に話しかけられたり、すぐに返事をしなきゃいけなかったりすると、筆談ではどうしても間に合わない。
そんな時は、恵くんや津美紀ちゃんが代わりに答えてくれていた。
だけど、周りから見たら。
私はただ、恵くんたちの後ろをついて回っているだけに見えていたのかもしれない。
「そうだ」
沙耶香ちゃんが、ふと思いついたように手を叩いた。
「伏黒くんの連絡先、教えてよ。さんなら知ってるでしょ?」
隣の女の子が、にやにやしながら沙耶香ちゃんの腕をつつく。
「え、なに? 沙耶香狙ってるの?」
「まあねー。中学の時から、ちょっといいなって思ってたんだ」
沙耶香ちゃんは毛先を指でくるくるしながら、照れたように答えた。
……沙耶香ちゃんも、恵くんのことを好きなんだ。
恵くんは無愛想だけど、本当は優しい。
かっこよくて、ちゃんと人を見てくれる。
誰かが好きになったって、少しもおかしくない。
そんな当たり前なこと、小さい頃からわかっていたはずなのに。
私が何も返せずにいると、沙耶香ちゃんはふっと笑った。
そして、私の腕の中にあるノートへ視線を落とす。
「ほら、いつもみたいにそのノートに書いてよ」
私は、ノートを抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。