第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
恵くんはスマホを耳に当てて、少しうんざりしたような表情をしていた。
五条先生が、また面倒なことを言っているのかもしれない。
時折、恵くんがこっちをちらりと気にしているのが分かる。
戻ってきたら。
きっと、さっきの続きを聞かれる。
あの時、本当は何て書こうとしたのか。
答えなきゃ。
書きたい。
でも、怖い。
好き、なんて。
たった二文字なのに、どうしてこんなに難しいんだろう。
さっきから、ドリンクのカップを持つ指先が震えている。
今のままだと、また頭の中真っ白になって恵くんに上手く伝えられない。
少し落ち着こう。
ふーっと深呼吸をした、その時だった。
「あれ? さん?」
不意に頭の上から声がして、顔を上げると、三人の女の子が立っていた。
声をかけてきたのは、真ん中にいる女の子だった。
肩まで伸びた栗色の髪。
メイクをしているのか、少し大人びた顔。
あ、この子。
中学の時、同じクラスだった――確か、沙耶香ちゃん。
「あー、やっぱりさんだ。久しぶり」
すると、その隣にいた子が不思議そうに首を傾げる。
「沙耶香、知り合い?」
「うん。中学の同級生」
沙耶香ちゃんはそう答えてから、私の方へ一歩近づいた。
「元気だった? ……って聞いても、答えられないか」
「え、どういうこと?」
「この子、昔から声出せないの。手話か筆談でしか会話できないんだよね」
その言葉を聞いた隣の女の子は、「へー、そうなんだ」と、まるで珍しい生き物でも見るような目で私を見下ろした。
悪気はないのかもしれない。
でも、その視線がチクチクと肌を刺して、私はノートを隠すようにぎゅっと胸に抱え込んだ。