第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
文房具屋さんを出たあと、私たちは近くのカフェでドリンクをテイクアウトした。
まだお寿司を食べに行くには少し早いから、と恵くんが言って。
そのまま、商店街の奥にある小さな公園へ向かうことになった。
公園のベンチに並んで座ると、恵くんは買ってきたオレンジジュースを手渡してくれた。
隣に座る恵くんは、自分のコーヒーにストローを刺している。
私は早速、紙袋から新しいノートを取り出した。
見てるだけで、顔が緩んでしまう。
だってこれは、恵くんが選んでくれて。
恵くんが買ってくれて。
恵くんが、次もまた買ってくれるって言ってくれたノート。
使うのが、もったいない……でも。
恵くんと一緒に買いに来るためには、このノートをちゃんと使い切らなきゃいけない。
大事にしたい。
でも、早く使い切りたい。
そんな矛盾した気持ちで、私は最初のページを開いたまま、しばらく固まっていた。
「……なんか書けよ」
顔を上げると、恵くんはコーヒーのストローから口を離し、私の手元を見ていた。
「ノートなんだから」
それは、そうなんだけど。
これは恵くんが買ってくれた、特別なノートで。
最初の一文字を適当に書くなんて、そんなもったいないことできない。
ペン先をページに近づけては、やっぱり無理、と引っ込める。
それを何度か繰り返していると、隣で恵くんが小さく息を吐いた。
「……別に、なんでもいいだろ」
「たとえば……俺に言いたいこと、とか」
恵くんに……言いたいこと。
そんなの、たくさんある。
(……いきなり言われると、困る)
私は少し迷ってから、ペン先を真っ白なページに落とした。
『今日、いつもと雰囲気が違うね』
恵くんは書かれた文字を見た瞬間、慌てたように視線を逸らして、コーヒーのストローを咥えた。