第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「……別に。いつもと違ったから」
ぶっきらぼうな声。
けれど、私から目を逸らしたまま、恵くんが小さく付け足した。
「……似合ってる」
そのたった一言で、私の心臓は一気に跳ね上がり、顔中が沸騰したように熱くなった。
野薔薇ちゃん、ありがとう。
私、今すごく幸せです。
「……行くぞ」
そう言って、恵くんが早足で歩き出す。
私は嬉しさで胸をいっぱいにしながら、その大きな背中を追いかけた。
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(あれ? りっぱずし、こっちだっけ?)
てっきり、そのままお寿司屋さんに向かうのだと思っていた。
でも、恵くんの足は、繁華街とは逆の、少し古びた商店街へ向かっていた。
不思議に思って首を傾げていると、前を歩いていた恵くんが振り返った。
「寿司の前に、少し寄りたいところがある」
そう言って連れてこられたのは、商店街の隅にある、小さな古い文房具屋さんだった。
(何か買うのかな……?)
そう思いながら、カランと鳴るドアベルの音と共に店内へ入る。
古い木製の棚。
紙とインクの匂い。
どこか懐かしい空気に包まれた瞬間、ずっと昔の記憶が蘇った。
――やっと読み書きができるようになった頃。
私の筆談用のノートを買おうと、五条先生に連れられてみんなで文房具屋さんに行った。
『絶対これがいいって! ほら、キラキラしてて超イケてる! 、今の時代はギャルだよ、ギャル!』
五条先生が得意げに差し出してきたのは、ラインストーンがギラギラにデコレーションされた、ショッキングピンクの派手なノートだった。
す、すごい。
目が眩しい……。
私が戸惑っていると、隣にいた恵くんが即座に却下した。
『それはないだろ……』
『えー? 可愛いじゃん。もこういうの持ったらテンション上がるって』
『上がる前に困ってる』
津美紀ちゃんが二人のやりとりにくすくす笑いながら、私の前に淡い色のノートを何冊か並べてくれた。
『ちゃん、好きなの選んでいいんだよ』
好きなの。
そう言われても、私はなかなか手を伸ばせなかった。