第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
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約束の時間、五分前。
私は待ち合わせ場所である駅前の時計塔の下へ向かった。
野薔薇ちゃんが選んでくれた服は、歩くたびにふわりと裾が揺れる、清楚な白いワンピース。
そこに淡いブルーグレーの薄手のカーディガンを羽織っている。
髪も綺麗に巻いてくれて、ハーフアップにして――津美紀ちゃんからもらった大事なバレッタで留めてもらった。
(恵くん、もう来てるかな……)
少しだけヒールのあるサンダルで、カツカツと足音を鳴らしながら歩く。
時計塔の下には、待ち合わせらしい人が何人か立っていた。
その中に、壁に寄りかかって単行本を読んでいる恵くんの姿が――。
(あれって、恵くん……だよね?)
いつも真っ黒な服ばかり着ているから、一瞬誰かわからなかった。
今日の恵くんは、ゆったりとした白いシャツに、ダークトーンの緩やかなパンツ。
そして足元には、パッと目を惹く赤いスニーカーを履いていた。
すごく大人っぽくて、お洒落で。
なんだか私の知っている恵くんじゃないみたいで、急に足がすくみそうになる。
(か……かっこいい)
胸の奥がぎゅっと甘く締め付けられる。
私は深呼吸を一つして、彼のもとへ歩み寄った。
本を読んでいた恵くんが、私の足音に気づいて顔を上げる。
「っ……」
目が合った瞬間、恵くんの目が大きく開いた。
その視線が、私を頭の先からつま先までスッと撫でるように動く。
その視線が再び私の顔に戻ってきた時、恵くんはバッと顔を背けた。
(えっ……?)
口元を片手で覆い、あからさまに視線を逸らしている。
その態度に、一気に不安でいっぱいになった。
(やっぱり、変だった……!? 張り切りすぎって引かれた!?)
私は恵くんに駆け寄り、彼の袖をちょんと引っ張った。
バッグから取り出したノートにペンを走らせる。
『なんで、そっち見るの?』
ノートを見せると、恵くんは覆っていた手をゆっくりと下ろした。