第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「何よこの服の山。急に断捨離でも始める気?」
私は机の上にあったいつものノートとペンを引っ掴み、急いで文字を書く。
『今日、恵くんと出かけることになったの』
それを見た瞬間、野薔薇ちゃんの瞳にカッと鋭い光が宿ったのがわかった。
「……伏黒と? 二人で?」
コクコクと何度も頷くと、野薔薇ちゃんはニヤリと悪魔的……いや、最高に頼もしい笑顔で口角を吊り上げた。
「なるほどね。……全てを理解したわ」
バチンッ! と野薔薇ちゃんが指を鳴らす。
「要するに、デートに着ていく服が決まらなくて迷走してたってわけね。よーし、そういうことならこの釘崎野薔薇に任せなさい!」
デート。
違う。
違う違う違う。
まだデートって決まったわけじゃない。
ただお寿司を食べに行くだけで。
必死に首を横に振るが、野薔薇ちゃんはもう完全に腕まくりをしていた。
「何よ。好きな男と二人で出かけるんでしょ。ここで張り切らなくて、いつ張り切るの」
そう言って、野薔薇ちゃんは服の山から服を一枚ずつ拾い上げていく。
「うーん……これは無難すぎるわね。こっちはの良さが消えちゃうし……あ、待って。これと、これを合わせれば……」
真剣な目で服と私を交互に見比べた野薔薇ちゃんは、あっという間にいくつかのアイテムを選び出し、バサッとベッドの上に並べた。
「よし、決まり! 今日のは、これでいくわよ!」
野薔薇ちゃんがビシッと指差したその組み合わせは、私ならきっと選ばなかったものだった。
可愛い。
でも、ちょっと恥ずかしい。
これを着て恵くんの前に立つところを想像しただけで、胸がそわそわする。
「伏黒みたいなむっつりは、絶対こういうのが好きよ!」
そうなの?
恵くん、むっつりなの?
よくわかんないけど、自信満々に胸を張る野薔薇ちゃんの笑顔をみていると、私の中に小さな勇気がぽっと灯った気がした。
恵くんに、可愛いって思ってほしい。
私はぎゅっと両手を握りしめて、野薔薇ちゃんに向かって力強くこくりと頷いた。