第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
𓂃 side:伏黒恵 𓂃
シャワーを浴びて、寮の自室に戻った。
濡れた髪をタオルで乱暴に拭い、ベッドに腰を下ろす。
熱い湯で訓練の汗も、倉庫の埃っぽさも、全部流したはずだった。
それなのに、右手だけがまだ、あの感触を覚えている。
思い出すな。
事故だ。
忘れろ。
そう言い聞かせても、頭の中は勝手にあの瞬間へ戻っていく。
薄暗い倉庫に二人だけ。
冷静なふりをしていたけど、本当はずっと落ち着かなかった。
いつものノートもスマホもなくて、不安そうに俺を見上げるから、目を逸らせなかった。
……可愛い、なんて。
そんなことを思う状況じゃないのに。
俺の上に覆いかぶさってきた、の細く華奢な身体。
訓練終わりの汗に混じって、の匂いがすぐ近くにあった。
すぐ耳元で、乱れた呼吸が聞こえて。
そして何より、この右手に残ってしまった柔らかい感触。
「……っ」
最低だ。
そう思うのに、身体の方は正直だった。
下腹部に熱が溜まって、スウェットがひどく窮屈に感じる。
手のひらを見ていると、が指でなぞった文字が浮かび上がってきた。
「……すし、って何だよ」
『す』――あいつがその一文字を書いた時、もしかしてって思ってしまった。
その続きを考えてはいけないと思うのに。
考えるなと思うほど、勝手に繋がっていく。
もし……が俺を家族でも、幼馴染でもなく。
男として見てくれているんじゃないかって。
ベッドに背中を倒す。
喉がひどく渇いた。
左手で自分の顔を覆って目を閉じるが、の顔が消えない。
(……)
右手が、ゆっくりと下へ落ちる。
スウェット越しに、すでに痛いほど熱を持った自身に触れた。