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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


恵くんが私の指の動きを目で追いながら、かすかに眉を寄せた。



「……す?」



心臓が、どくんと大きく鳴る。

今、恵くんが読んだ。
私が書いた文字を。
私が、書いてしまった文字を。

書いちゃった。
書いちゃったよ。


あと一文字。
あと一文字だけ、書けば……。

恵くんに、私の気持ちが届いてしまう。
十年かけて隠してきたものが、形になってしまう。


もし、恵くんも同じ気持ちだったら。

恵くんとキスできるかもしれない。
恵くんの隣に、家族じゃない形でいられるかもしれない。


でも。
同時に、彼を呪いに差し出してしまうかもしれない。


指先が震える。
どうしても、動かない。



「?」



続きが書かれないことに気づいたのか、恵くんの視線が私の指先から私へ移る。


ばれた?
今、私が何を書こうとしていたのか。
恵くん、気づいた?

まだ一文字だけ。
まだ、ただの『す』だ。
わかるわけない。

早く、書かなきゃ。

三回指を動かせば、『き』。


き。
き。
き……。


ごくりと唾を飲み込んで、指をゆっくりと滑らせた。
















「……し?」



恵くんが、不思議そうに首を傾げている。


最後の最後で、逃げるように別の形を描いてしまった。
私のばか……。
いくじなし。



「……すし?」



私はこくんと頷いた。


違う。
違うけど。
今はもう、それでいい。



「寿司……食べたい、のか?」



そうじゃない。
そうじゃないけど。


今は、恵くんがそう受け取ってくれたことに、心の底からほっとしていた。



「……今度、りっぱずし行くか」



そう言って、恵くんは私の手首をそっと離す。
それから、自分の手のひらを一度だけ見下ろした。

私が『す』と『し』を書いた、その場所を。
ほんの少しだけ、考えるように。



「……、本当は――」



何かを言いかけて。
でも結局、何も言わずに顔を逸らした。


すると、扉の向こうで、がたんと物音がした。
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